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社外取締役に期待するのは企業変革の起爆剤(松島憲之)

3月決算期会社の株主総会が6月中旬から本格化する。今年の株主総会の最大の注目点は『取締役会の機能強化』である。中でも、経営監視強化と企業統治健全化のための社外取締役の増員や質の向上は毎年重要課題となっている。議決権行使助言会社大手のグラス・ルイスやISSなどが、指名委員会設置会社や監視等委員会設置会社に対して社外取締役が全体の3分の1未満なら選任に反対しているが、今年は国内機関投資家がこれに同調するケースがさらに増加するだろう。東京証券取引所が4月6日に公表したコーポレートガバナンス・コードの改訂案でも、プライム市場上場会社において独立社外取締役の割合を3分の1以上とした上で、取締役会の下に独立社外取締役を主要な構成員とする独立した指名委員会・報酬委員会の設置が望ましいとしている。これらを受けて企業は積極的に社外取締役の増員に動くだろう。

 『取締役の機能強化』の動きは、単に社外取締役の人数の問題だけではなく、取締役の質の追及でもはじまりだした。取締役会出席率が低い候補や、株式を保有する会社から派遣される独立性がない候補に反対するケースもさらに増加するだろう。これは当たり前の動きである。今後、重要になるのは、社外取締役の資質である。

 社外取締役候補は、弁護士、会計士、大学教授、他社の社長経験者、元高級官僚などが多い。平時では、これらの方々の常識的判断を無難に活用すればうまく経営課題を解決できたかもしれない。しかしながら、不確実性が高まるニューノーマルで生き残るためには、平時の常識は捨てるべきだ。

 ビッグウェーブになってきた気候変動対応の影響、米中覇権戦争によるブロック経済化の動き、新型コロナウイルスによる非接触型社会への移行などがあるため、従来の常識だけでは企業は生き残ることが困難になっている。

生き残るには、環境変化に合わせて保有する経営資源を早急に再統合・再編成する必要がある。

 企業は独自の収益構造を持ち、それを強化する戦略を展開してきたが、従来は経営資源を効率的に活用して収益を最大化する『オーディナリー・ケイパビリティ』を向上すればよかった。これは、定められたルールの中で生産性などを効率化して上昇させることを優先目的にする戦略である。コスト競争力の向上を重視して、生産技術革新により効率性を追求、そこで得られたベスト・プラクティスを普遍化する能力である。トヨタのカイゼン活動がその典型例である。日本企業はこの能力で優れた成果を発揮し、収益を拡大させてきた。

 しかしながら、不確実性が高まる世界ではこれだけでは生き残れない。急速な環境変化に合致する新たな事業構造に変革する『ダイナミック・ケイパビリティ』が必要になるからだ。まず、従来の常識を捨てて、ESGへの対応、中でも具体的な気候変動の影響を考慮して『企業がなすべき正しいこと新たにを定義する』ことがスタートになる。そして、バックキャスティングなどの経営思考で、理想の未来社会を描き、持続的成長ができるようなビジネスモデルを考える能力が経営者に求められる。生き残り戦略には、理想の未来社会を達成するために、今取り組まねばならない新技術開発などの設定やイノベーションを生み出すための人材などの要素の獲得も必要だ。

 経営者が企業変革力を持たねばならない時代だからこそ、経営革新にバックキャスティング思考やアート思考を持つ優秀な社外取締役の力を有効活用する必要性が高まる。波風が立たない執行サイドが作ったシナリオで仕切る取締役会を、企業価値を高めるためのディスカッションができる取締役会に変革し、株主などのステークホルダーの期待に応える意識改革が重要なのだ。

 今後は企業変革の起爆剤になる社外取締役を選任しているかどうかを、投資家は見極めるようになるだろう。業界知識を豊富に持ち、多面的で的確なアドバイスができる人材を確保するのは難しいが、優秀なアナリストや優秀なコンサルタントを登用することも、有力な解決策だろう。

2021年6月3日

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