新型コロナが変えるIRプラクティスのスタンダード(IR Magazine)
IRのベテランである私は今年1月2日にクリスマス休暇から高揚感とともにニューヨークのオフィスに戻った。ダウ指数は史上最高値付近で推移しており、米国の失業者数は記録的低さで株式市場は今年も好調に思われたからだ。
話しを今日に戻そう。ダウはそれ以降15%も下げ(一時は36%も下げた)、2200万人のアメリカ人が職を失い資本市場への資金流入は極端に細くなってしまった。そしてCOBID-19の感染者は米国で74万人、全世界では200万人を超えた。悲しむべきことに失われた命は世界で16万、米国では3万9000人でその半数はニューヨークで占められている。多くの国で自主隔離、テレワークが進み、人間の自然の営みである人との接触の形が変わってきた。家族との時間、誕生日会、仕事でのミーティング、全てが短時間でバーチャル化してきた。
IRも同様だが悪いことばかりではない。バーチャル化したことで効率的で費用対効果が高くなったと同時に、投資家とのコミュニケーションに於いてIR担当者の役割はこれまで以上に重要になった。資本市場においては多くの上場企業がパンデミックに備えることに注力しており、直ぐに収束するシナリオを排して長期的に事業に影響をもたらすことを覚悟し始めた。同時に、投資家/株主との適切かつ効率的なコミュニケーションに苦心している。
コミュニケーションの戦略は企業によりさまざまだが、大事なことは、こんな時こそ情報発信に慎重になったり言葉を濁したりしないことだ。適切なタイミングで透明性の高いコミュニケーションが求められる。投資家も難しい立場に置かれていることを理解すべきである。どの株を入れ替えてどの株を持ち続行けるか判断しなくてはならない。IR担当者の仕事は資本市場と対峙する経営陣に不安を取り除く道筋を見せ、投資家には透明性のあるコミュニケーションで安心感を与えなければならない。経験あるIR担当者は会社の戦略をリードしそれを速やかに実行することが求められるが、このような環境下の市場ではガイダンスの発表や投資家との質疑において、効率的なコミュニケーションとは会社ごとに異なると言えるだろう。
コミュニケーションの新しいルール 私の経験に基づいて(特にマイクロキャップの企業に)お願いしているが、資料、もしくは資料らしいものがある時にだけプレスリリースを出すべきである。このようなルールを決めることで取るに足らない情報の海から経営陣を遠ざけることができる。時として頻繁なニュースリリースや株主通信は投資家への適時開示という名目の下に実行されるが、投資家が関心を寄せる本当に重要なニュースのみを開示することだ。しいてはそれが投資家の情報整理を助け、十分考えられた投資判断ができるこようになるからだ。
オフィスが閉鎖され出張はゼロ。自宅で働くとことが新しいスタンダードになった。IRの活動方法が短期間のうちにバーチャル化することは驚くに当たらない。電話会議、ビデオ会議、ウェブセミナーはかなり前から実施されてきた。伝統的な対面IRは歴史的に役目を終えたと言ってよいだろう。
これまでのところビデオ会議は想像していたよりも良い結果を残している。画質、費用(多くの場合は無料)で申し分なく、飛行機に乗らねば実施できないロードショーとは比較にならないパフォーマンズだ。経営陣が1週間出張する日程が組めない時でもビデオ会議はロードショーを可能にしてくれる。投資家にとっても厳しい質問で変化する経営陣の顔色をビデオで見ることができる。我々は多くの企業にビデオ会議でアナリストやファンドマネージャーにアプローチすることを勧めている。良いニュースは金融界は企業とのビデオ会議を積極的に受け入れていることだ。我々のアレンジチームは投資家との電話/ビデオ会議で大変良い結果を収めている。なぜならCOVID-19以前には決して電話会議を取らなかった投資家が受けるようになったことだ。この傾向が続いてくれることを願っている。
バーチャルカンファレンス もう一つの大きなトレンドは証券会社がバーチャルカンファレンスに転換してきていることだ。航空会社やホテル業界には悪いニュースだが、これは主催する証券会社に限らず出席企業や投資家にとっても費用削減の大きなチャンスだ。また、主催者の証券会社にとってはより多くの企業を追加費用なして招待することができる。中小型株のIR担当者にとっては、これまで呼ばれなかったIRイベントにバーチャルカンファレンスを通して参加する機会が広がることになる。
今後このトレンドは定着するのだろうか?それともCOVID-19が収まれば元に戻るのだろうか?はっきり申し上げるが、IRのバーチャル化は完全に定着する。そして対面とのハイブリッドという形で落ち着くことになる。どちらにしてもそれは投資家、企業、IR担当者にとってはWIN/WINの結果になるのだから。
(本記事はIR Media社との合意の下、日本でのみ配信しています。)
2020年4月30日